天皇弥栄(すめらぎ いやさか) 慶應義塾大学講師 竹田 恒泰
第3回 なぜ男系継承でなくてはならないか
■もはや理由などどうでもよい
「天皇の皇位がなぜ男系によって継承されてきたか」。これに答えるのは容易ではない。そもそも、人々の経験と英知に基づいて成長してきたものは、その存在理由を言語で説明することはできない。なぜなら、特定の理論に基づいて成立したのではないからだ。天皇そのものが理屈で説明できないように、その血統の原理も理屈で説明することはできないのである。
だが、理論よりも前に、存在する事実がある。男系継承の原理は古から変更されることなく、現在まで貫徹されてきた。これを重く捉えなくてはいけない。例えば、現存する世界最古の木造建築である法隆寺は、その学問的価値の内容にかかわらず、最古故にこれを簡単に立て替えてはいけない。同様に、天皇は男系により継承されてきた世界最古の血統であり、これを断絶させることはできない。
もはや理由などどうでもよいのである。特定の目的のために作られたものよりも、深く、複雑な存在理由が秘められていると考えなくてはいけない。
■男系継承とは家の領域の問題
男系継承は男女の性別の問題と勘違いされるが、そうではない。いうなれば家の領域の問題であり、男女は関係ない。男系継承とは、「天皇家の方に天皇になってもらう」ことに尽き、それは天皇家以外の人が天皇になるのを拒否することに他ならない。
民間であっても、息子の子に家を継がせるのが自然で、娘の子たる外孫に継がせるのは不自然である。愛子内親王殿下の即位までは歴史が許すが、たとえば田中さんとご結婚あそばしたなら、その子は田中君であって、天皇家に属する人ではない。もし田中君が即位すれば、父系を辿っても歴代天皇に行きつくことのない、原理の異なる天皇が成立する。
民間ならば、継承者不在でも、外孫を養子にとって家を継がせることもあるだろう。しかし、天皇はそれをやってはいけない。継承者がいなくなる度に養子を取るようなことがあれば、伝統的な血統の原理に基づかない、天皇が成立することになり、それは既に天皇ではないのである。
■男系継承は男性を締め出す原理
また、男系継承は女性蔑視の制度だという人がいる。これも大きな間違いだ。歴史的に天皇は民間から幾多の嫁を迎えてきた。近代以降でも明治天皇・大正天皇・今上天皇の后はいずれも民間出身であらせられる。だが、皇室が民間の男性を皇族にしたことは、かつて只の一度の例もない。男系継承とは、女性を締め出す制度ではなく、むしろ男性を締め出す制度なのである。民間の女性は皇族との結婚で皇族となる可能性があるが、民間の男性が皇族になる可能性はない。
ところで、「愛子さまが天皇になれないのは可哀そう」という主張もある。皇位の継承は、その星に生まれた者の責務なのであって、あたかも甘い汁を吸うかのような権利などでは毛頭ない。
皇后陛下が失語症になられたこともあった。しかし、見事に克服あそばし、立派に皇后としてのお役割を全うされていらっしゃるが、皇后だけでも大変なお役割であって、一人の女性が天皇と皇后の両方のお役割を担われるとしたら、それは無理というべきだろう。
■国体の継承は現代日本人の責務
男系継承の原理は簡単に言語で説明できるものではないが、この原理を守ってきた日本が、世界で最も長く王朝を維持し現在に至ることは事実だ。皇室はだてに二千年以上も続いてきたわけではない。歴史的な皇室制度の完成度は高く、その原理を変更するには余程慎重になるべきである。今を生きる日本人は、先祖から国体を預かり、子孫に受け継ぐ義務がある。何でも好き勝手に変えてよいということはない。